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安定同位体の表し方
安定同位体の組成を比較するには・・・安定同位体比
標準となる物質中の同位体存在割合と分析対象の物質中の同位体存在割合を比較して、同位体組成の違いを表します
生態系の研究に最も広く使用されているのは、水素(H)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)の4種類の安定同位体です。 リン(P)も重要な元素であり、安定同位体の利用できれば良いのですが、リンには、安定同位体がありません。(安定しているのは、³¹Pの一種類のみです)
それでは、異なる試料の安定同位体の組成について比較する場合、どうするのかという事になります。 この比較には、それぞれの試料の安定同位体組成が、基準となる物質の安定同位体組成とどれくらい異なるかで比較します。
この同位体の測定の基準として使用される標準物質の同位体存在量を例にしますと、次のようになります。
元素 |
標準物質・安定同位体組成 (原子比%) |
---|---|
水素(H) |
標準海水(SMOW)
¹H 99.985%
²H 0.0149% |
炭素(C) |
矢石(PDB)
¹² C 98.894%
¹³C 1.106% |
窒素(N) |
空中窒素
¹⁴ N 99.635%
¹⁵N 0.365% |
酸素(O) |
標準海水(SMOW)
¹⁶O 99.763%
¹⁷O 0.037%
¹⁸O 0.200% |
そして、安定同位体組成の違いを表す場合、安定同位体比という用語が使用されます。 この安定同位体比は、標準物質の安定同位体存在比と分析サンプルの安定同位体存在比がどれくらい隔たっているか(ずれ)を千分率(1/1000:パーミル)で示します。
例えば、標準となる物質の炭素安定同位体の¹²Cに対する¹³Cの存在割合と、分析するサンプルの炭素安定同位体の¹²Cに対する¹³Cの存在割合が、どの程度のずれているかを示す値を、炭素安定同位体比(δ¹³C:デルタ13C)といいます。
同様に窒素安定同位体¹⁴Nと¹⁵Nの窒素安定同位体比をδ¹⁵N、酸素安定同位体の¹⁶Oと¹⁸Oの酸素安定同位体比をδ¹⁸O ,水素安定同位体の¹Hと²Hの水素安定同位体比をδ²H、またはδDといいます。
具体的には、ある試料の炭素同位体比 δ¹³C(デルタ13シー)は、
δ¹³C試料={(¹³C/¹²C試料÷¹³C/¹²C標準物質)—1}x1000
で示します。 これは、安定同位体比の比較で比率そのままで比較するとあまりにも桁が多くてわかりにくい為です。千分率でより比較しやすく表現しているものです。
なかなか理解しにくい部分ですが、概念としては、まず基準となる物質を比較の為の基準点として、サンプルの重い同位体と軽い同位体の存在比率を、標準となる物質の数値と比較して、どの程度となるかという指標で比較しているのです。
例えば窒素安定同位体比が+3‰(パーミル)と記載されている場合は、標準物質である空気中の窒素の安定同位体の存在比とサンプルの安定同位体の存在比は、+3‰の違いがあることを示します。これは、サンプルには、より重い窒素同位体が多く含まれている事を示しています。 逆にー10‰であれば、サンプルには、より軽い窒素同位体が多く含まれる事を示しています。 このように安定同位体の組成の偏差を比較することで、そのサンプルの環境・地理学上の違いを判断するのです。