放射性ストロンチウムの測定の課題
何故簡単に放射性ストロンチウムは測定できないのか。
放射性ヨウ素やセシウムなど、ほとんどの放射性物質は壊変の際にγ線を放出します。 このγ線は、それぞれの物質毎に固有のエネルギーを有する為に、γ線のエネルギースペクトルを測定する事で、どのような核種かを特定できます。 しかし、放射線ストロンチウムは、γ線を放出せずβ線を放出します。 β線は固有のエネルギーを持たないため、放射性ストロンチウムを測定する為には、まず放射性ストロンチウムのみを検体から抽出し、その上でβ線を測定する必要があります。 このために検体からストロンチウムを抽出する手順が必要なのですが、この抽出過程が非常に煩雑なものとなります。 イオン交換法や、硝酸により放射性ストロンチウムを溶かし、その後回収する方法などがありますが、いずれも処理に多段階が必要な上、ストロンチウムよりも大きなエネルギーを出す事から、ストロンチウム90が壊変して生まれるイットリウム90のβ線を測定します。 これら一連の測定の為には、抽出処理、イットリウム90の生成の時間等を含めると2−3週間が必要となります。 これがストロンチウム90の測定が迅速に対応できない大きな理由となります。放射性ストロンチウムの抽出の新技術・3M社製固相抽出ディスク
放射性ストロンチウムの測定には、上記のように検体より煩雑な手順で放射性ストロンチウムを分離する事が必要です。従来はイオン交換法等によりセシウムを抽出し、不純物を除去した上で測定を行います。この処理工程は、10段階以上で3週間以上を要します。
これに対して、固相抽出法という新たな手法が開発されています。この技術は、米国スリーエム社が開発したエムポア・ディスクという特殊なフィルターを使うもので、溶液中のストロンチウムをディスクに直接吸着させる事で、迅速に放射性ストロンチウムの回収が可能となります。すでに文部科学省、米国エネルギー省等で放射性ストロンチウム測定法として認められており、1週間程度で測定ができる画期的なものです。水、米、牛肉、飼料、土壌に含まれる放射性ストロンチウム(Sr90/89)を精度良く測定が可能となります。同位体研究所は、このディスクを用いて、放射性ストロンチウムの測定試験を行っています。
固相ディスクは、それぞれ個別のパッケージに保存されており、このディスクを抽出用の器具にセットし、吸引しながら検体から酸によりストロンチウムを抽出した上え、週出液を通過させると、ディスクに放射性ストロンチウムが吸着されます。その後ディスクを乾燥させ、β線測定装置で測定すれば放射性ストロンチウムが精度良く測定できます。放射性ストロンチウムは、水に溶けやすく植物などにも吸収されやすい為、迅速な検査が必要となっています。固相ディスクによる測定は、放射性ストロンチウムの測定工程を大幅に簡素化させるもので、幅広く放射性ストロンチウム測定の提供を可能とします。
このように固相抽出による放射性ストロンチウムの迅速測定は、放射性ストロンチウム測定では非常に有力な分析法となります。しかし、この分析法にも留意点があります。それは検体中に、鉛、カルシウム、バリウム、安定ストロンチウムが大量に含まれと、固相ディスクに吸着されてしまし、ディスク当たりのストロンチウム吸着能力を超えてしまう事です。(つまり、ストロンチウムがきちんと吸着されずにディスクを通過してしまう)
また鉛の場合では、放射性ストロンチウムと同様にβ線を発する放射性鉛が存在します。従って、固相ディスクによる測定を行う場合には、妨害元素(カルシウムや鉛、バリウムなど)が大量に含まれる土壌や焼却灰、骨などの測定では、適切な前処理により妨害元素を除去する必要があります。
水、多くの食品、農産物などは固相ディスクでの放射性ストロンチウム吸着に妨害となる元素が多く含まれない為、より簡単に放射性ストロンチウムの測定が可能です。同位体研究所は、土壌や焼却灰など、多種類の核種、妨害元素を含む検体についても、迅速法による効率的な測定が可能となるよう研究を継続しています。